パーソナルスタイリストの髙尾香織です。
前回の記事では、骨格診断の本来の目的は「似合う服リスト」を手に入れることではなく、自分の体型を客観的に知ることにある、というお話をしました。そして、診断結果に「従う」のではなく、自分で判断できるようになることが大切だと。
今回はその続きとして、二つのことを書きたいと思います。
一つは、骨格診断の対極のように語られることの多い「好きなものを着ればいい」という考え方について。もう一つは、私自身が骨格診断の知見を使って、好きだけど本来は似合いにくいはずの服を着こなしている、という実践のお話です。
「好きなものを着ればいい」——この言葉が響く理由
骨格診断について調べていると、必ずといっていいほど目に入ってくる言葉があります。
「好きなものを着ればいいじゃない」
診断結果に縛られて服選びが苦しくなった人に向けられるこの言葉は、とても魅力的に聞こえます。SNSでは「診断を気にするのをやめて好きな服を着るようにしたら、自分らしく、楽しくなった」という体験談がたくさん共有されていますし、実際にそれで楽になった方も多いのだと思います。
この言葉にこれだけ力があるのは、いくつかの背景があるように思います。
まず、近年は「好き」や「ときめき」を最上位に置く考え方が広く支持されています。こんまりさんの「ときめくものだけ残す」メソッドに代表されるように、自分の内面の感覚を信じましょう、という空気が社会全体にあります。その流れの中で「好きなものを着ればいい」は、とても自然な結論に見えます。
それから、ファッションが大好きで、好きなものを着ることに迷いのない方々——私が「ファッション強者」と呼んでいる方々が、ご自身の実感としてそう発信されていることも大きいと思います。服への関心が高く、自分のスタイルに確信を持っている方にとっては、「好きなものを着る」はごく当たり前のことですし、実際にそれで素敵に着こなしていらっしゃる方もいます。
また、骨格診断を受けた際に診断士さんから「このタイプの服は着てはいけません」と強く言われてしまった経験をお持ちの方が、その窮屈さから離れたくて「もう診断なんて気にしない、好きなものを着る」と宣言される、というケースもあります。
こうしたさまざまな文脈で発せられた「好きなものを着よう」がSNSで広まっていく中で、元の発言にあった前提や条件が抜け落ちて、誰にでも当てはまる一般的な答えのように流通しているのが、今の状況だと感じています。
ちなみに、影響力のある専門家の方々の発信を丁寧に読んでみると、実は「好きなものだけ着ていればいい」とは言っていないことがほとんどです。好きなもの、似合うもの、なりたい自分像——それらを自分の中で統合するプロセスが大事だと言っている方が多いのですが、そのプロセスの部分がSNSの拡散過程で落ちてしまい、「好きなものを着ていい」という結論だけが広がっているケースが少なくないように思います。
それでも、「好きなものを着ればいい」では解決しない人たちがいる
では、「好きなものを着ればいい」で本当に解決するのでしょうか。
ある方たちにとっては、確かにそうだと思います。でも、この言葉では救われない方が、実はたくさんいらっしゃいます。
「好き」がわからない
まず、そもそも自分が何を「好き」なのかがわからない、という方々です。
長い間、お仕事や子育てを優先してきた結果、自分がどんな服を着たいのか考える余裕がなかった。気がついたら、仕事に差し支えのない無難な服を選ぶことが習慣になっていた。そんな方に「好きなものを着ればいいですよ」と言っても、「その好きがわからないから困っているんです」ということになります。
また、性格的に、自分一人で「これが好き」と決めるのが難しい方もいます。周囲に「似合うね」と言われて初めて「あ、これが自分の好きなのかな」と感じるタイプの方にとっては、「好き」は出発点というよりも、どちらかというと後からわかるものなのかもしれません。
こうした方々に「好きなものを着ましょう」は、答えどころか、新たな行き詰まりになりかねません。
好きな服が、似合わなくなってきた
次に、好きな服はわかっている。でも、加齢や体型の変化によって、以前のようにしっくりこなくなってきた、という方。これが一番多い悩みかもしれません。
若い頃は、何を着てもそれなりに様になる力があります。「好き」という思いや勢いだけで行けてしまう年代です。だから「好きなものを着ればいい」は、20代、30代の方にとっては、それほど間違っていないのです。身体が「好き」を支えてくれますから。
問題は、その経験則がそのまま40代、50代に持ち込まれることです。好きな服を着ているのに、なんだか以前のように決まらない。鏡を見たとき、「あれ?」と感じる。それは、センスが衰えたのでも、おしゃれが下手になったのでもなく、身体が変化したという物理的な現実です。
「好きなものを着ればいい」は、その現実を消してはくれません。好きを貫いても鏡の前の違和感は残ります。だからといって好きを諦めるのもつらい。その間で揺れている方が、本当にたくさんいらっしゃるのだと思います。
服は、内面の感覚だけでは完結しない
「好き」「ときめく」という感覚は、もちろん大切なものです。でも、服には一つ、他のものとは決定的に違う性質があります。
服は、自分の身体の上に載せて、外に出るものです。
どれだけ好きでも、どれだけときめいても、自分の身体に合わなければ機能しません。お部屋のインテリアや食器なら、好きなものに囲まれているだけで満足できるかもしれません。でも服は、着た自分を他の人が見ます。そして多くの方は、他の人から見ても素敵に見えることを、心のどこかで望んでいるのではないでしょうか。
コーディネートは、一枚ずつでは成り立たない
もう一つ、こんまりさんのメソッドを服に当てはめたときに起きがちなことがあります。
クローゼットの中から一枚ずつ手に取って、ときめくかどうかで選別する。ときめくものだけを残す。それ自体は気持ちのいい作業かもしれません。でも、残ったアイテムが互いに組み合わさるかどうかは、また別の問題です。
コーディネートとは、複数のアイテムの関係性で成り立つものです。トップス単体では素敵でも、ボトムスとのバランスが取れなければ全体としては成立しません。一枚ずつ「好き」で選んだ結果、好きなものばかりなのに着られる組み合わせがない——そんな状態に陥った人も当時多くいました。「ときめく」を最優先にした結果、ときめかないアイテムには、コーディネート全体を成立させワードローブを機能させるために必要なものがあることを、忘れてしまった結果です。
診断を捨てるのではなく、診断の使い方を変える
ここまで「好きなものを着ればいい」の限界についてお話ししてきましたが、もう一つ触れておきたいことがあります。
骨格診断を受けた際に、似合わないとされる服を「着てはいけない」と言われた——そういう体験から、診断そのものに嫌気がさして離れた方がいらっしゃいます。そのお気持ちはよく理解できます。せっかく楽しみにして受けた診断で、好きな服を否定されたら、嫌になって当然です。
ただ、少し立ち止まって考えていただきたいのは、「骨格診断がそう言った」のか、「その診断士さんがそう言った」のかという点です。
骨格診断という仕組み自体は、あなたの体型の特徴を整理するものであって、特定の服を禁止する仕組みではありません。「ウェーブタイプだからワイドパンツは穿いてはいけない」とは、骨格診断の理論は言っていないのです。それを「着てはいけない」と断じたのは、その方の運用の仕方。
診断の仕組みと、それを伝える人の問題は分けて考えていただけたらと思います。診断への不満から診断ごと捨ててしまうと、体型を客観的に知るという道具の便利さまで、一緒に手放してしまうことになります。
骨格診断で「好き」を似合わせる——私自身の実践
ここからは、私自身の話を。私の骨格タイプはウェーブです。ウェーブタイプに似合うとされるのは、柔らかい素材、曲線的なデザイン、フリルやレースのような装飾的な要素のある服。華奢な体型を活かした、フェミニンなスタイルが得意とされています。
でも、私が好きなのはストレートタイプに似合う服なのです。シンプルで直線的なデザイン、しっかりした素材感、マニッシュな雰囲気のもの。
骨格診断の結果だけに従えば、私は好きな服を着られないことになります。かといって、骨格診断を無視して好きな服をそのまま着ると、ウェーブ体型の華奢さや薄さと合わない部分が出てきて、しっくりこないし、スタイルも悪く見えてしまいます。そういう状態を「スタイルダウン」と呼びますが、40代以上の大人がスタイルダウンしてしまうと、洗練されて見えなくなる、というのが一番痛い部分だな、とスタイリストの経験則から個人的に感じています。
では、どうしているかというと、骨格診断の知見を使って、ウェーブ体型の弱点をカバーする工夫を入れています。好きな服を着つつ、体型との間に生じるずれを、骨格診断で知った自分の身体の特徴に基づいて調整するんです。
具体例でご説明しましょう。これは数シーズン前のユニクロのセットアップです。ツィードのようなしっかりしたジャケットとワイドパンツ。オーバーサイズで着るように意図されてデザインされており、アイテムそのものにウェーブタイプに似合う要素はあまりないんですね。これを典型的なウェーブの私が「普通に」着てしまうと・・・

全体にオーバーなサイズ感に、丈の長さやボリューム感で、重心が下に行きすぎています。体に対して服がきちんと乗っていない。お父さんの上着でも借りたのかな、というような雰囲気で、スタイルダウンしています。ここで、このセットアップ自体を諦めてしまうのではなく、他のアイテムを使って似合わせるための調整をします。インナーに着ているシンプルなVネックのカットソーではなくて、大きなフリルのブラウスを持っていくと・・・

着せられている感が解消していませんか?ついでに、ベーシックなバッグとシューズも取り替えました。チェックのクラッチバッグと赤のバレエシューズ。どちらもウェーブタイプの得意アイテムですね。ここで特筆すべきは、このコーディネート自体が、最初のシンプルコーデよりもずっと洗練されて見えることです。私も、スタイリングとして純粋に、こちらの方がずっと好きです。
もう一つ例を見てみましょう。夏用のシンプルなジャケットを、ウェーブタイプ向けに似合わせた例です。こちらもユニクロのもの。黒のシングルのジャケットで今度はジャストサイズですが、これも私の体型で工夫なく着てしまうと、とても冴えない雰囲気になるので、インナーはウェーブタイプ向けのものにすることで、しっくりくるコーデになっています。


左は透ける白レースのブラウスを、右は、エンブロイダリーのワンピースを重ねたスタイルです。どちらもボトムスはベーシックなパンツとデニムです。小さなバッグや、カゴバッグはウェーブタイプが持つと似合うので差し込んだコーディネートです。
どの例も、シングルのジャケットやセットアップといった、メンズライクなアイテムを着こなすために、それ以外の部分に骨格タイプに合うアイテムを入れることで、スタイルアップをするだけではなく、おしゃれ感もアップしているのがわかっていただけたでしょうか。
これは、好きだけで突き進んでいたら到達できない地点です。もし私が、ジャケットやパンツを「好きだから似合わなくてもいい」と割り切っていたら、この着こなしにはなっていません。
かといって、骨格診断に忠実に従って、ウェーブ向けとされるフェミニンな服だけを着ていても、やはりこの地点にはたどり着けていないんですね。
骨格診断を「似合う服を選ぶためのルール」としてではなく、「好きな服を自分の身体の上で成立させるための道具」として使う。これが私の実践であり、私がお客様にもお伝えしていることです。
おわりに
骨格診断に従うか、好きなものを着るか。この二択で考えると、どちらを選んでも何かを諦めることになります。
でも、その間に第三の道があります。
自分の体型の特徴を骨格診断で知り、好きな服をどう着れば自分の身体で成立するかを考える。診断はあなたの「好き」を否定するためのものではなく、「好き」をもっと素敵に着こなすための知恵を与えてくれるものです。
好きな服を、似合うように着る。その可能性を、骨格診断は開いてくれます。そう考えると、骨格診断ってとても素敵なツールだと思いませんか?「似合う」も「好き」も諦めないために、むしろ積極的に使っていくと心強いんです。そんな目で眺めてみると、診断は自分を縛るものではなくなると思います。
「似合う」と「好き」のバランス、一人で探すのは難しいものです
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